日々の業務の中で、「この記録の付け方、本当に正しいのかな?」と感じたり、同僚のサービス提供時間に疑問を抱いたりしたことはありませんか。
「もしかして、うちの事業所は不正請求をしているのでは…」
そんな不安や罪悪感を、誰にも相談できずに一人で抱え込んでいる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事は、そんなあなたのためのガイドです。
この記事を読めば、何が不正にあたるのかが明確になり、万が一の時にどう行動すればよいか、そして何よりあなた自身の身を守る方法がわかります。
もう一人で悩む必要はありません。
正しい知識を身につけ、次の一歩を踏み出すための手助けとなることをお約束します。
これだけは知っておきたい!訪問看護の不正請求、5つの典型パターン
まず、訪問看護における「不正請求」とは、意図的に実際とは異なる内容で介護報酬や診療報酬を請求し、不当に利益を得る行為全般を指します。
これは単なる事務的なミスではなく、医療保険や介護保険制度の信頼を根幹から揺るがす重大な問題です。
ここでは、現場で起こりがちな5つの典型的なパターンをご紹介します。
ご自身の職場の状況と照らし合わせながら、確認してみてください。
| パターン番号 | 不正請求の典型パターン | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | サービス時間の水増し | 短時間の訪問を、報酬算定の基準時間(例: 30分)を満たしたかのように偽って請求する。 |
| 2 | 架空請求・名義貸し | 実際には提供していないサービスを請求したり、資格のない者が行ったサービスを看護師の名義で請求したりする。 |
| 3 | 医師の指示書改ざん | 医師が指示した訪問期間や内容を事業所が無断で書き換え、不当にサービスを継続・請求する。 |
| 4 | 過剰なサービス提供 | 利用者の真のニーズを無視し、事業所の売上のために不必要な訪問回数や複数名訪問を設定する。 |
| 5 | 業務範囲の逸脱 | 掃除や買い物といった家事援助などを、訪問看護サービスとして偽って請求する。 |
パターン1:サービス時間の水増し(短時間訪問の長時間請求)
「利用者様の体温と血圧を測っただけで、滞在時間は5分もなかった」
それにもかかわらず、カルテやレセプトには「訪問時間30分」と記載されているケースはありませんか。
これは、サービス提供時間を実際よりも長く見せかける「水増し請求」という典型的な不正行為です。
診療報酬や介護報酬は、サービスの提供時間に応じて算定区分が設けられています。
例えば「30分以上の訪問」が算定の条件であるにもかかわらず、それに満たない訪問を30分として請求することは、虚偽の申告にあたります。
| 請求の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 正しい請求 | 利用者宅に35分間滞在し、バイタルチェック、服薬管理、体調の聞き取りを行ったため、「30分以上」の区分で請求した。 |
| 不正請求 | 安否確認のため5分間だけ訪問したが、記録上は「30分」と記載し、報酬を請求した。 |
パターン2:実際には行っていないサービスの請求(架空請求・名義貸し)
これは、数ある不正の中でも特に悪質な手口です。
具体的には、サービスを全く提供していないにもかかわらず、あたかも提供したかのように記録を作成し、報酬を請求する「架空請求」が挙げられます。
また、看護師の資格を持たないスタッフが医療行為を行い、資格を持つ看護師が訪問したことにして請求する「名義貸し」もこれに含まれます。
これらの行為は、単なる不正請求にとどまりません。
公的な保険制度から金銭をだまし取る行為として、詐欺罪などの刑事罰に問われる可能性が非常に高い、重大な犯罪行為です。
| 不正の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 架空請求 | 利用者が入院中や不在であることを知りながら、訪問したことにして記録を作成し、報酬を請求する。 |
| 名義貸し | 事務員が利用者宅を訪問し簡単なケアを行ったが、記録上は看護師が専門的な処置を行ったことにして請求する。 |
パターン3:医師の指示書改ざん
訪問看護は、必ず医師が発行する「訪問看護指示書」に基づいて行われます。
この指示書には、訪問の必要性や期間、提供すべき看護の内容が明記されており、サービスの正当性を担保する極めて重要な書類です。
しかし、一部の悪質な事業所では、この指示書を無断で改ざんするケースが報告されています。
例えば、指示された訪問期間が終了しているにもかかわらず、事業所が勝手に日付を書き換えてサービスを継続し、請求を行うといった手口です。
これは公文書偽造にあたる可能性もあり、発覚した際には厳しい行政処分が下されます。
| 指示書のチェックポイント | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 指示期間 | 指示書に記載された期間を超えてサービスが計画・提供されていないか。 |
| サービス内容 | 指示された内容と、実際に提供しているサービス内容に乖離がないか。 |
| 署名・押印 | 医師の署名や押印が正しく記載されているか。不自然な点はないか。 |
パターン4:利用者ニーズを無視した過剰なサービス
特にホスピス型住宅などで問題視されているのが、利用者の状態や真のニーズとは無関係に、事業所の売上を最大化するためだけにサービスが組まれるケースです。
「1日3回、必ず2名で訪問する」といった画一的なルールが設けられ、個別のアセスメントが全く行われていない場合、それは過剰なサービス提供と見なされる可能性があります。
訪問看護は、あくまで利用者の療養生活を支えるために、個別性をもって提供されるべきものです。
事業所の利益のために、不必要なサービスを過剰に提供し報酬を請求することは、制度の趣旨を逸脱した不適切な行為と言えます。
| サービス提供の考え方 | 具体例 |
|---|---|
| 適切なケアプラン | 利用者の状態変化に応じて、週ごとのカンファレンスで訪問回数や内容を見直している。 |
| 過剰なサービスの疑い | 全ての利用者に対し、状態に関わらず「毎日3回・複数名訪問」が一律で設定されている。 |
パターン5:制度の悪用(訪問看護の業務範囲逸脱)
訪問看護師が行う業務は、療養上の世話や診療の補助と定められています。
しかし、掃除、洗濯、買い物といった、本来は訪問介護や自費サービスで対応すべき「家事援助」を訪問看護サービスとして提供し、報酬を請求する手口があります。
また、「見守り」や「話し相手」といった行為も、それ自体を訪問看護として請求することは原則として認められていません。
これは、異なる目的を持つ制度を意図的に混同し、不当に利益を得ようとする行為です。
各サービスの役割と範囲を正しく理解することが求められます。
| サービスの種類 | 主な業務内容の例 |
|---|---|
| 訪問看護 | 病状観察、医療処置(点滴、褥瘡ケアなど)、服薬管理、医療機器の管理、療養相談 |
| 訪問介護 | 食事・入浴・排泄などの身体介護、掃除・洗濯・調理などの生活援助 |
| 自費サービス | 制度では対応できない長時間の見守り、大掃除、ペットの世話など |
なぜ不正は後を絶たないのか?利益優先主義が招く業界の構造問題
「なぜ、これほどまでに不正が起きてしまうのだろうか」
「真面目に働いている自分が、不正に加担させられているようで辛い」
そう感じるのは、あなただけではありません。
訪問看護の不正は、一部の悪質な個人の問題だけでなく、業界が抱える構造的な課題が背景にあります。
この問題の根源を理解することは、あなたの罪悪感を和らげ、客観的に状況を捉える助けになるはずです。
| 不正を誘発する構造的要因 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ① 営利追求のインセンティブ | 民間企業の参入により競争が激化。収益を最優先するあまり、制度を悪用して利益を上げようとする経営者が現れやすい。 |
| ②「性善説」に基づく制度設計 | 日本の保険制度は、事業者が倫理観に基づいて運営するという前提(性善説)で作られているため、悪意ある事業者による不正を防ぐ仕組みが弱い。 |
| ③ 慢性期医療の受け皿不足 | 病院からの早期退院が進む一方、退院後の患者の受け皿が不足。このニーズに応える形で急増したホスピス型住宅などが、不正の温床となりやすい。 |
これらの問題は、個人の倫理観だけで解決できるものではありません。
あなたが今直面している状況は、こうした業界全体の歪みが原因で起きている可能性が高いのです。
【実践編】不正を発見したらどうする?身を守りながら告発する3ステップ
「自分の職場が不正をしているかもしれない」と確信に変わったとき、次は何をすべきでしょうか。
感情的に行動するのではなく、冷静に、そして計画的に動くことが非常に重要です。
ここでは、あなた自身の身の安全を最優先に考えながら、問題を是正するための具体的な3つのステップをご紹介します。
- STEP1:冷静に客観的な証拠を集める
- STEP2:適切な行政機関に通報・相談する
焦りや怒りから、すぐに上司に詰め寄ったり、同僚に吹聴したりするのは絶対に避けてください。
まずは落ち着いて、事実を固めることから始めましょう。
STEP1:冷静に客観的な証拠を集める
行政機関が調査に動くためには、あなたの「告発」を裏付ける客観的な証拠が不可欠です。
感情的な訴えだけでは、「個人の思い込み」として処理されてしまう可能性があります。
以下のような証拠を、無理のない範囲で、安全に収集することを心がけてください。
- 改ざんの疑いがある医師の指示書(改ざん前後のものが揃えば理想的)
- 実際のサービス提供時間と異なる時間が記載された訪問看護記録書
- 不正を指示するような内容のメール、LINEなどのチャット履歴
- 社内会議での不適切な指示を記録した音声データや議事録
| 有効な証拠の例 | 収集時の注意点 |
|---|---|
| 訪問看護記録書のコピーや写真 | 個人のスマートフォンで撮影するなど、不審に思われない方法で行う。 |
| 不正な指示が書かれた業務マニュアル | データでの持ち出しはリスクが高い。必要なページの写真撮影が無難。 |
| 上司との会話の録音 | 会話の録音は法的に有効な証拠となり得るが、慎重に行う必要がある。 |
| レセプト(診療報酬明細書)の控え | 不正請求の直接的な証拠。入手可能であれば非常に強力。 |
| 同僚からの証言 | 複数人の証言が集まれば信憑性が高まる。信頼できる同僚に相談する。 |
重要: 証拠集めは、あなた自身の安全が最優先です。会社のサーバーに不正アクセスしたり、重要書類を物理的に持ち出したりするなど、リスクの高い行為は絶対に避けてください。
STEP2:どこに通報・相談すればいい?行政の窓口一覧
証拠がある程度集まったら、次のステップは行政機関への通報・相談です。
通報先は複数あり、それぞれ役割が異なります。
匿名での相談を受け付けている窓口も多いので、まずは情報提供という形で連絡してみるのも一つの方法です。
| 相談窓口の名称 | 管轄・役割 | 特徴 |
|---|---|---|
| 地方厚生局 | 厚生労働省の地方機関。医療保険(診療報酬)に関する不正を管轄。指定取消など強い権限を持つ。 | 専門性が高く、大規模な不正や悪質なケースに対応。情報提供窓口が設置されている。 |
| 都道府県・指定都市 | 介護保険の指定・監督を行う。介護保険(介護給付費)に関する不正を管轄。 | 事業所の指定や指導監査を直接行うため、具体的な調査に繋がりやすい。 |
| 市区町村 | 介護保険の保険者。住民からの相談窓口。 | 住民にとって最も身近な相談先。都道府県と連携して対応する。 |
| 国民健康保険団体連合会(国保連) | 介護報酬の審査・支払機関。 | レセプトの審査を行っているため、請求内容の異常を検知しやすい。 |
どこに連絡すればよいか迷った場合は、まずは管轄の地方厚生局の「指導監査課」や、都道府県の「高齢福祉課」「介護保険課」などに連絡し、匿名で状況を説明してみることをお勧めします。
通報後の流れとあなたの身を守る方法
「通報したら、会社にバレてクビにされないだろうか」
「業界で悪い噂を流されて、働き続けられなくなるかもしれない」
通報・告発を考える上で、こうした報復への不安が最も大きな壁になるのは当然のことです。
しかし、あなたのような勇気ある行動を守るための法律と仕組みが存在します。
通報後は、まず行政による調査が行われます。
これは「実地指導」や「監査」と呼ばれ、担当者が事業所を訪問し、書類の確認やスタッフへの聞き取り調査を行います。
不正の事実が認定されると、事業所には以下のような処分が下されます。
- 行政処分: 戒告、改善勧告、指定の一部効力停止、指定取消
- 金銭的措置: 不正に請求した報酬の返還、および最大40%の加算金の徴収
- 刑事告発: 特に悪質な場合は、詐欺罪などで警察に告発されることもあります。
そして、最も重要なのがあなたの身分を守るための**「公益通報者保護法」**です。
この法律は、不正を告発した労働者が、そのことを理由に解雇されたり、降格、減給などの不利益な扱いを受けたりすることを明確に禁止しています。
| 通報者に起こりうること(不安) | 法律による保護の内容 |
|---|---|
| 解雇・雇止め | 公益通報を理由とする解雇は無効となる。 |
| 降格・減給・嫌がらせ | 不利益な人事異動や職場でのハラスメントは禁止されている。 |
| 損害賠償請求 | 事業所が通報者に対して損害賠償を請求することは、原則としてできない。 |
もし、あなたが不正を告発したことで不当な扱いを受けた場合は、労働基準監督署や弁護士に相談することで、法的な保護を受けることができます。
あなたの勇気ある行動は、法律によって守られています。
正しいことをしたいと願うあなたの思いは、決して間違っていません。
この記事が、あなたが抱える重荷を少しでも軽くし、健全な訪問看護の未来を取り戻すための一助となれば幸いです。
最終的には、不正が横行する職場から離れ、倫理観を持って運営されている健全なステーションへ転職することも、あなた自身を守るための立派な選択肢の一つです。
訪問看護における不正請求とは何ですか?
訪問看護における不正請求とは、実際のサービス内容や時間と異なる内容で介護報酬や診療報酬を意図的に請求し、不当な利益を得る行為を指します。
訪問看護の不正請求にはどのようなパターンがありますか?
訪問看護の不正請求には、サービス時間の水増し、架空請求・名義貸し、医師の指示書の改ざん、過剰なサービス提供、制度の悪用(業務範囲の逸脱)の5つの典型的なパターンがあります。
サービス時間の水増しの具体的な例は何ですか?
実際には5分しか訪問していないのに、カルテやレセプトには30分と記載し、報酬を請求する行為です。これは、実際の時間を偽って長く見せかける不正請求の一例です。
不正請求を発見した場合、どうすればよいですか?
まず、冷静に客観的な証拠を集め、その証拠を基に行政機関に通報・相談します。証拠は写真や記録、メールなど重要な情報を安全に収集し、個人の安全を確保しながら行動することが重要です。
不正請告発後はどうなるのですか?また、告発者の保護はどうなっていますか?
告発後は行政による調査が行われ、必要に応じて行政処分や刑事告発が行われます。告発者は「公益通報者保護法」により、不利益な扱いや解雇、嫌がらせなどから法的に守られており、安全に告発できる仕組みがあります。