2024年度の介護報酬・診療報酬同時改定で新設された「訪問看護医療DX情報活用加算」。
「自施設でも算定すべきか悩んでいる」
「算定要件が複雑で、何から手をつけていいか分からない」
「解釈を間違えて、後から返戻や指導を受けるのは避けたい」
このようなお悩みをお持ちの訪問看護ステーション管理者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、訪問看護医療DX情報活用加算について、算定要件から届出、同意書の準備まで、実務担当者の方が知りたい情報を網羅的に解説します。
この記事を最後まで読めば、新しい加算制度の全体像を正確に理解し、明日からでも安心して算定に向けた準備をスタートできます。
この記事でわかること
- 訪問看護医療DX情報活用加算の基本(単位数・対象者)
- 加算算定に必須の4つの要件(施設基準)
- 算定準備の具体的な3ステップ(届出・同意書・掲示)
- 返戻を防ぐための注意点と公式Q&A
- 加算取得の先にあるDX化のメリット
まずは基本から!訪問看護医療DX情報活用加算の概要
訪問看護医療DX情報活用加算は、オンライン資格確認システムを通じて利用者の診療情報などを取得し、その情報を活用して質の高い訪問看護を提供することを評価する新しい加算です。
国が推進する医療DXの流れを汲み、訪問看護の現場でもデータ活用を後押しすることが目的です。
まずは、加算の基本的な情報を表で確認しましょう。
項目 | 内容 | 補足 |
---|---|---|
対象保険 | 医療保険 | 介護保険での算定はできません |
単位数(金額) | 50円/月 | 1人の利用者につき月に1回まで算定可能 |
算定回数 | 月に1回限り | 同一月に複数回訪問しても算定は1回です |
対象者 | オンライン資格確認で情報を取得し、活用することに同意した利用者 | 同意取得が必須となります |
この加算は、医療保険を利用する訪問看護が対象です。
金額は月に50円と少額ですが、多くの利用者に算定することで、ステーションの収益改善につながります。
何より、この加算への取り組みが、今後のステーション運営に不可欠なDX化の第一歩となります。
【これで万全】加算の4つの算定要件をわかりやすく解説
この加算を算定するためには、厚生労働省が定める4つの施設基準をすべて満たす必要があります。
一つひとつは難しくありませんので、自施設の状況と照らし合わせながら確認していきましょう。
要件番号 | 算定要件(施設基準) | 具体的に何をすればよいか |
---|---|---|
1 | オンライン請求を行っていること | 訪問看護療養費をオンラインで請求している必要があります。 |
2 | オンライン資格確認を行う体制があること | マイナンバーカード等を読み取るカードリーダーを設置し、システムを利用できる状態にします。 |
3 | 取得した情報を活用し、計画的な管理を行うこと | 取得した薬剤情報や健診情報などを踏まえ、訪問看護計画書を作成・変更します。 |
4 | 医療DX推進体制について掲示していること | 院内の見やすい場所と、自施設のウェブサイトに規定の事項を掲示します。 |
特に重要なのが、4番目の「掲示」に関する要件です。
院内だけでなく、原則としてウェブサイトへの掲載も求められます。
ただし、ウェブサイトへの掲載については、2025年5月31日までは経過措置が設けられており、この期間中は必須ではありません。[1]
3ステップで準備完了!届出・同意書・掲示の実践マニュアル
算定要件が確認できたら、次は具体的な準備に取り掛かりましょう。
必要なタスクを3つのステップに分けて解説します。
ステップ1:地方厚生(支)局への届出
この加算を算定するには、管轄の地方厚生(支)局へ事前の届出が必要です。
施設基準を満たしていることを示すための書類を提出します。
項目 | 内容 |
---|---|
必要な届出 | 「訪問看護医療DX情報活用加算」の施設基準に係る届出 |
届出様式 | 厚生労働省のウェブサイト等で確認 |
提出先 | 事業所が所在する都道府県を管轄する地方厚生(支)局 |
ステップ2:利用者向け同意書の準備
オンライン資格確認システムで利用者の情報を取得するには、必ず本人の同意を得る必要があります。
口頭での同意だけでなく、後々のトラブルを防ぐためにも、書面で同意を得ておくことが推奨されます。
同意書に盛り込むべき内容は以下の通りです。
記載すべき項目 | 具体的な内容例 |
---|---|
同意の対象 | オンライン資格確認システムを用いて、あなたの診療・薬剤情報を取得すること |
取得する情報 | 薬剤情報、特定健診情報、その他必要な診療情報 |
情報の利用目的 | 取得した情報をあなたの訪問看護計画の立案やサービス提供に活用し、より質の高いケアを提供するため |
同意の任意性 | 本同意はあなたの任意であり、同意しない場合でも受けられるサービスに差が生じることはないこと |
同意の撤回 | いつでも本同意を撤回できること |
【テンプレート】同意書 文例
【訪問看護医療DX情報活用加算に係る同意書】
(訪問看護ステーション名) 御中
私は、貴事業所が「訪問看護医療DX情報活用加算」を算定するにあたり、オンライン資格確認システムを通じて私の診療情報・薬剤情報等を取得し、訪問看護サービスの提供のために活用することに同意します。
【同意日】 年 月 日
【利用者署名】
【住所】
ステップ3:院内・ウェブサイトの掲示物作成
最後に、院内の見やすい場所とウェブサイトに掲示する内容を準備します。
これは利用者に対して、ステーションが医療DXに積極的に取り組んでいることを周知する目的があります。
掲示が必要な場所 | 掲示内容 |
---|---|
院内の見やすい場所 | ・オンライン資格確認を行う体制を有していること ・取得した情報を活用し、質の高い看護を提供すること |
自施設のウェブサイト | 上記と同様の内容 ※2025年5月31日までの経過措置あり |
【テンプレート】掲示物 文例
【医療DX推進体制に関する掲示事項】
当ステーションでは、質の高い訪問看護を提供するため、医療DXを推進しております。
1. オンライン資格確認システムを導入し、利用者の皆様の診療情報や薬剤情報等を取得・活用しています。
2. 取得した情報を基に、より適切で効果的な訪問看護計画を作成し、きめ細やかなケアの提供に努めます。
マイナ保険証の利用にご協力をお願いいたします。
(訪問看護ステーション名)
【返戻防止】公式Q&Aで解決!よくある質問と注意点
ここでは、厚生労働省の疑義解釈資料などを基に、実務で迷いやすいポイントをQ&A形式で解説します。[2]
正しい知識を身につけ、請求誤りや返戻を防ぎましょう。
質問 | 回答 |
---|---|
Q1. ウェブサイトがありません。どうすればよいですか? | A1. 2025年5月31日までは経過措置期間のため、ウェブサイトへの掲示は必須ではありません。その間は院内掲示のみで算定可能です。 |
Q2. 利用者さんがマイナ保険証を持っていません。加算は算定できますか? | A2. マイナ保険証がなくても、利用者さんの同意があれば、健康保険証の情報を用いてオンライン資格確認システムで情報を取得できる場合があります。情報が取得・活用できれば算定対象となります。 |
Q3. 情報の「活用」とは、具体的に何をすればよいのですか? | A3. 取得した薬剤情報などを踏まえ、訪問看護計画書に「〇〇の薬剤内服中のため、副作用の△△に注意する」といった記述を加えるなど、具体的なケア計画に反映させることが「活用」にあたります。単に情報を閲覧しただけでは算定できません。[3] |
Q4. 同意が得られなかった場合、何か不利益はありますか? | A4. ありません。同意はあくまで利用者の任意です。同意が得られなかった利用者には、従来通りの方法で情報収集を行い、質の高いケアを提供します。 |
DX加算はスタートライン!業務効率化と収益向上を実現する次の一手
訪問看護医療DX情報活用加算の算定は、ゴールではありません。
これは、ステーションの未来を創るDX化へのスタートラインです。
オンライン資格確認の導入は、以下のような多くのメリットをもたらします。
DX化によるメリット | 具体的な効果 |
---|---|
事務作業の効率化 | 保険証の転記ミスや資格確認にかかる電話連絡などが削減されます。 |
情報共有の迅速化 | ケアマネジャーや医療機関との正確な情報連携がスムーズになります。 |
ケアの質の向上 | 利用者の最新の薬剤情報や検査結果を把握でき、より安全で質の高い看護を提供できます。 |
利用者満足度の向上 | 正確な情報に基づいたケアは、利用者やその家族の安心感につながります。 |
さらに、ウェブサイトでの情報掲示が必須となる流れは、ステーションの情報発信能力がますます重要になることを示しています。
DX化によって整備したウェブサイトを有効活用し、自施設の強みや特色を地域にアピールすることが、これからのステーション経営には不可欠です。
例えば、訪問看護ステーション検索ポータル「みつける訪看ex」のようなプラットフォームに情報を掲載することで、DX加算の取り組みをアピールし、新たな利用者の獲得につなげることも可能です。
DX化を単なる加算算定のタスクと捉えず、事業成長の機会として活用していきましょう。
まとめ:DX加算を確実に算定し、質の高い訪問看護を目指そう
今回は、2024年度から新設された「訪問看護医療DX情報活用加算」について、概要から具体的な準備、注意点までを解説しました。
最後に、この記事の重要なポイントを振り返ります。
- 医療保険が対象で、利用者の同意を得て情報を活用すれば月に1回50円を算定できる。
- 算定には**「オンライン請求・資格確認」「情報活用」「同意取得」「掲示」**の4つの要件を満たす必要がある。
- 準備は**「届出」「同意書」「掲示物」**の3ステップで進める。
- ウェブサイトへの掲示は2025年5月31日までは経過措置がある。
- 加算算定は、業務効率化やケアの質向上につながるDX化の第一歩である。
新しい制度の導入は、初めは戸惑うことも多いかもしれません。
しかし、訪問看護医療DX情報活用加算への対応は、ステーションの業務を効率化し、利用者により良いケアを届けるための重要な投資です。
この記事を参考に、まずはできることから一歩ずつ準備を進めていきましょう。
訪問看護医療DX情報活用加算とは何ですか?
訪問看護医療DX情報活用加算は、オンライン資格確認システムを通じて利用者の診療情報を取得・活用し、高品質な訪問看護を提供することを評価する新しい制度であり、医療保険対象で月に50円の加算が可能です。
この加算を算定するための基本的な条件は何ですか?
加算を算定するには、オンライン請求と資格確認を行う体制を整え、取得した情報を活用して管理・計画を行い、医療DX推進体制について掲示し、なおかつ利用者の同意を得る必要があります。
具体的にどのような準備が必要ですか?
準備は三つのステップに分かれており、まず管轄の地方厚生(支)局に届出を行い、次に利用者から書面で同意を得る同意書を準備し、最後に院内やウェブサイトに掲示物を作成して掲示することが求められます。
ウェブサイトへの掲示はいつまで必要ですか?
2025年5月31日までの経過措置期間中はウェブサイトへの掲示は必須ではありませんが、その後は必須となる予定です。
DX化の取り組みを進めるメリットは何ですか?
DX化により事務作業の効率化や情報共有の迅速化、ケアの質向上、利用者満足度の向上が期待でき、またウェブサイトを活用した情報発信により事業の成長や地域での競争力向上にもつながります。