訪問看護ステーションで働く中で、「長時間訪問看護加算」について頭を悩ませた経験はありませんか。
「算定要件が医療保険と介護保険で違って複雑…」
「このケースで算定して、レセプトが返戻されたらどうしよう…」
このような不安を抱えながら、日々の業務にあたっている方も少なくないでしょう。
この記事では、訪問看護の現場で働く看護師や管理者、請求担当者、そしてケアマネージャーの皆様が抱える疑問や不安を解消します。
医療保険と介護保険それぞれの算定要件を徹底的に比較し、具体的なQ&Aや返戻を防ぐための実践的なポイントまで、分かりやすく解説します。
この記事を読めば、長時間訪問看護加算に関する知識が整理され、明日からの業務に自信を持って取り組めるようになるはずです。
そもそも長時間訪問看護加算とは?制度の基本をサクッと理解
長時間訪問看護加算は、特別な管理を必要とする利用者様に対し、通常より長い時間の訪問看護を提供した場合に算定できる制度です。
この加算は、医療依存度が高い方や複雑なケアが必要な方への手厚い看護を評価するために設けられています。
制度の全体像を掴むことで、日々のケアプラン提案や算定業務に役立てることができます。
加算の目的:重度な利用者の在宅生活を支えるための評価
この加算の最も重要な目的は、重度な医療ニーズを持つ利用者様が安心して在宅生活を続けられるよう支援することです。
十分な時間をかけた質の高い看護サービスを提供することは、利用者様のQOL(生活の質)向上に直結します。
同時に、医療機関への不要な入院を防ぐ効果も期待されています。
この加算は、訪問看護ステーションにとっても重要な意味を持ちます。
長時間のケアに対する適切な報酬が保証されることで、ステーションは安定した経営基盤を築くことができます。
結果として、地域における在宅医療提供体制の維持・強化に貢献することにつながるのです [1]。
「長時間」とは90分以上が基本!時間要件の考え方
算定の基本となる「長時間」とは、1回の訪問看護が1時間30分(90分)を超える場合を指します。
この時間要件の考え方は、医療保険と介護保険で少し異なる点があるため注意が必要です。
| 保険種別 | 時間要件の基本的な考え方 |
|---|---|
| 医療保険 | 1回の訪問看護サービス提供時間が、純粋に90分を超えた場合に算定対象となります。 |
| 介護保険 | 1時間以上1時間30分未満の訪問看護を行った後に、引き続き訪問看護を行い、その合計時間が90分を超えた場合に算定対象となります。 |
特に介護保険の場合は、訪問が2回に分かれていても、連続した一連のケアとして扱われる点がポイントです。
この違いを正確に理解しておくことが、適切な算定への第一歩となります。
【保険別】長時間訪問看護加算の算定要件を徹底比較
長時間訪問看護加算の算定で最も混乱しやすいのが、医療保険と介護保険での要件の違いです。
ここでは、それぞれの保険制度における対象者や報酬、算定頻度などを項目別に整理し、明確に比較していきます。
このセクションを読めば、両者の違いがすっきりと理解できるはずです。
医療保険における長時間訪問看護加算の算定要件
医療保険で長時間訪問看護加算を算定する場合、主に以下のような重度の医療的ケアを必要とする方が対象となります。
特に「特別訪問看護指示書」が交付されているケースが代表的です。
| 項目 | 医療保険における要件 |
|---|---|
| 対象者 | – 特別の管理を必要とする利用者(例:特別訪問看護指示書が交付された方) – 厚生労働大臣が定める疾病等の利用者(例:末期の悪性腫瘍、難病など) |
| 算定額 | 5,200円 / 1日 |
| 算定頻度 | 週に1回まで |
| 時間要件 | 1回の訪問看護の提供時間が1時間30分(90分)を超えること |
| 届出 | 不要 |
介護保険における長時間訪問看護加算の算定要件
介護保険における長時間訪問看護加算は、「特別管理加算」の対象となる利用者が主な対象です。
要介護度によって「長時間訪問看護加算」と「介護予防長時間訪問看護加算」に分かれますが、単位数や要件は同じです。
| 項目 | 介護保険における要件 |
|---|---|
| 対象者 | – 特別管理加算の対象となる利用者(要介護1〜5、要支援1〜2) |
| 単位数 | 300単位 / 1回 |
| 算定頻度 | 週に1回まで |
| 時間要件 | 1時間以上1時間30分未満の訪問看護に引き続き訪問看護を行い、通算の提供時間が90分を超えること [2] |
| 届出 | 不要 |
一目でわかる!医療保険と介護保険の比較早見表
これまでの内容を、一つの表にまとめて比較してみましょう。
この表を手元に置いておけば、いざという時に素早く確認できます。
| 比較項目 | 医療保険 | 介護保険 |
|---|---|---|
| 対象者 | 特別の管理を必要とする利用者 (特別訪問看護指示書など) | 特別管理加算の対象者 |
| 時間要件 | 1回の訪問が90分を超える | 複数回の訪問の合計が90分を超える |
| 報酬 | 5,200円 / 1日 | 300単位 / 1回 |
| 算定頻度 | 週に1回 | 週に1回 |
| 根拠となる計画 | 訪問看護計画書 | 居宅サービス計画書(ケアプラン) 訪問看護計画書 |
これで迷わない!長時間加算の算定可否判断 Q&A
ここでは、現場で判断に迷うことが多い具体的なケースをQ&A形式で解説します。
公式文書だけでは分かりにくい実践的な疑問を解消し、自信を持って判断できるようになりましょう。
Q. 精神科訪問看護でも長時間加算は算定できる?
はい、算定できます。
ただし、通常の長時間加算とは別に「長時間精神科訪問看護加算」という枠組みになります。
対象者や算定額が異なるため、混同しないように注意が必要です。
| 項目 | 長時間精神科訪問看護加算の概要 |
|---|---|
| 対象者 | – 精神科特別訪問看護指示書が交付された利用者 – 入院中の患者で、退院日に精神科訪問看護が必要な方 |
| 算定額 | 5,200円 / 1日 |
| 算定頻度 | 週に1回まで |
| 特徴 | 通常の長時間加算とは別に算定でき、精神科領域の手厚いケアを評価するものです。 |
Q. リハビリ職(PT・OT・ST)の訪問は対象になる?
いいえ、原則として対象外です。
長時間訪問看護加算は、保健師、看護師、または准看護師による「看護業務」に対して算定されるものです。
理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)によるリハビリテーションが主目的の訪問は、この加算の対象にはなりません。
Q. 他の加算(緊急時訪問看護加算など)との併用は可能?
はい、併用は可能です。
例えば、計画的な長時間訪問を行った日に、利用者様の状態が急変し、緊急で訪問した場合を考えてみましょう。
この場合、それぞれの加算の要件を満たしていれば、両方を算定することができます。
- 長時間訪問看護加算:計画に基づいた90分以上の訪問に対して算定
- 緊急時訪問看護加算:計画外の緊急訪問に対して算定
ただし、請求の際はそれぞれの訪問の目的と内容が明確に区別できるよう、記録を正確に残すことが極めて重要です。
レセプト返戻を防ぐ!確実な算定と請求のための3つの必須ポイント
算定要件を理解していても、請求時のちょっとした不備でレセプトが返戻されてしまうことがあります。
ここでは、事業所の収益を守るために不可欠な、確実な算定と請求のための3つのポイントを解説します。
日々の業務でこの3点を徹底することが、返戻リスクの低減に繋がります。
ポイント1:ケアプラン・訪問看護計画書への「計画性」の明記
長時間加算の算定には、その訪問が「計画的」であったことを書類上で証明する必要があります。
ケアプランや訪問看護計画書には、以下の点を具体的に記載しましょう。
- 長時間訪問が必要な理由
- 例:「複雑な創傷処置と全身管理に時間を要するため」「複数の医療機器の管理と家族指導を同時に行うため」
- 具体的なケア内容と目標
- 例:「90分以上の時間を確保し、褥瘡処置とストーマケア、経管栄養の管理を行う。家族が手技を習得できることを目標とする。」
- 提供時間
- サービス提供時間として「90分」や「120分」など、具体的な時間を明記する。
ポイント2:訪問看護記録書に「必要性」と「実施内容」を具体的に記録
日々の訪問看護記録書は、計画通りのサービスが提供されたことを示す最も重要な証拠です。
監査や実地指導でも必ずチェックされるポイントであり、以下の内容を具体的に記録することが求められます。
| 記録のポイント | 記載内容の具体例 |
|---|---|
| 計画との整合性 | 訪問看護計画書に記載されたケア項目を確実に実施したことを記録します。 |
| 長時間を要した理由 | 「創部の浸出液が多く、洗浄とドレッシング材の選択に時間を要した」「利用者様の不安が強く、傾聴と精神的ケアに30分を費やした」など、時間を要した客観的な事実を記載します。 |
| 具体的な実施内容 | どのようなケアを何分かけて行ったか、バイタルサインや利用者様の反応などを時系列で詳細に記録します。 |
ポイント3:算定時間と実績記録の整合性をダブルチェック
請求業務におけるヒューマンエラーを防ぐためには、事業所内でのチェック体制が不可欠です。
特に、以下の点に齟齬がないか、必ず複数の担当者で確認しましょう。
- 訪問看護記録書に記載されたサービス提供時間
- レセプト(請求明細書)に記載する算定時間
この2つの時間に1分でもズレがあると、返戻の対象となる可能性があります。
請求担当者と現場の看護師が連携し、提出前に必ずダブルチェックを行うフローを確立することをお勧めします。
【2024年以降】報酬改定の動向と事業所が取り組むべき経営戦略
訪問看護制度は、国の医療・介護政策に合わせて常に変化しています。
ここでは、2024年度の報酬改定のポイントと、今後予想される制度の動きを解説します。
これらの情報をいち早くキャッチし、将来を見据えた事業所運営を行うことが、安定経営の鍵となります。
2024年度改定の注目点:医療DX推進と処遇改善への流れ
2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定では、訪問看護ステーションの運営に影響を与えるいくつかの重要な変更がありました。
| 改定の注目ポイント | 内容 | 事業所への影響 |
|---|---|---|
| 訪問看護医療DX情報活用加算の新設 | オンライン資格確認等で得た情報を活用し、計画的な管理を行うことを評価する加算が新設されました [3]。 | ICT化やDX推進が、直接的に事業所の収益に繋がる可能性を示しています。 |
| 介護職員等の処遇改善 | 看護職員を含む介護従事者の賃上げを目的としたベースアップ評価料が導入されました。 | 人材確保・定着のため、処遇改善に関する制度を積極的に活用することが求められます。 |
今後の動向:2026年度「訪問看護の処遇改善加算」新設と同一建物居住者への規制強化
今後、訪問看護ステーションの経営に大きな影響を与えうる制度改定が予定されています。
早期に情報を把握し、対策を検討することが重要です。
- 2026年度「訪問看護の処遇改善加算」の新設
- 2026年度の介護報酬改定で、訪問看護に特化した処遇改善加算が新設される見込みです [4]。
- 職員の賃上げや職場環境の改善に計画的に取り組むことが、将来の加算取得に繋がります。
- 同一建物居住者への規制強化
- 高齢者住宅など、同一建物に住む多数の利用者へサービス提供を行う場合の報酬について、規制が強化される方向で議論が進んでいます [5]。
- 特定の建物に依存した事業モデルを持つステーションは、一般在宅の利用者様を増やすなどの戦略転換が必要になる可能性があります。
長時間加算を活かした収益向上と安定運営のヒント
長時間加算は、算定しても人件費とのバランスが難しいという課題も指摘されています [6]。
この加算を事業所の強みに変えるためには、以下のような経営戦略が有効です。
- 他の加算との組み合わせによる単価向上
- 特別管理加算や緊急時訪問看護加算、ターミナルケア加算など、算定可能な加算を漏れなく取得し、利用者一人あたりの売上単価を最大化します。
- ICT活用による業務効率化
- 電子カルテやスケジュール管理ツールを導入し、記録や情報共有にかかる間接業務の時間を削減します。
- 創出された時間で、より多くの訪問や質の高いケアを提供することが可能になります。
- 重度者・医療的ケア児(者)への専門性を強化
- 長時間加算の対象となりやすい医療依存度の高い利用者様を積極的に受け入れる体制を整えます。
- 専門性の高いステーションとして地域での評判を確立し、医療機関や居宅介護支援事業所からの信頼を獲得します。
まとめ:長時間加算を正しく理解し、質の高いケアと安定経営を実現しよう
長時間訪問看護加算は、医療保険と介護保険で要件が異なり、一見すると複雑に感じるかもしれません。
しかし、その目的は一貫して「重度な医療ニーズを持つ利用者様の手厚い在宅ケアを支える」という点にあります。
この記事で解説したポイントを改めて確認しましょう。
- 基本を理解する:加算は90分以上の計画的な訪問が対象です。
- 保険別の違いを把握する:対象者や時間要件の違いを比較表で整理しましょう。
- 返戻を防ぐ記録と連携:計画書と記録の整合性、事業所内のダブルチェックが鍵です。
- 未来を見据える:報酬改定の動向を把握し、先を見越した経営戦略を立てましょう。
この加算制度を正しく理解し、適切に活用することは、利用者様へ質の高いケアを届けるだけでなく、訪問看護ステーションの経営を安定させる上でも不可欠です。
本記事が、皆様の日々の業務の一助となれば幸いです。
長時間訪問看護加算とは何ですか?
長時間訪問看護加算は、特別な管理を必要とする利用者に対し、通常より長い時間の訪問看護を提供した場合に算定できる制度であり、医療依存度が高い方や複雑なケアが必要な方の在宅ケアを評価します。
「長時間」とはどの程度を指しますか?
「長時間」とは、医療保険では1回の訪問看護が90分(1時間30分)を超えた場合、介護保険では複数回の訪問の合計時間が90分を超える場合を指します。
医療保険と介護保険での長時間訪問看護加算の要件は何が違いますか?
医療保険では、1回の訪問看護サービスの提供時間が90分を超える場合に算定でき、対象は特別の管理を必要とする利用者です。一方、介護保険では、複数回の訪問を通じて合計で90分を超え、要介護者や支援者が対象となります。
長時間訪問看護加算の請求で返戻を避けるポイントは何ですか?
請求の際には、ケアプランや訪問看護計画書に計画性と提供時間を明記し、訪問看護記録に必要性と具体的な内容を詳細に記録し、記録と請求時間の整合性を事前にダブルチェックすることが重要です。
今後の制度動向と事業所の経営戦略にはどのようなものがありますか?
2024年度の報酬改定ではICT化推進や処遇改善が進められ、2026年度には訪問看護の処遇改善加算が新設され、同一建物居住者への規制強化も予想されるため、職員の賃上げや業務効率化、専門性の強化を通じて、長期的な経営の安定と質の向上を目指すことが推奨されます。