まずは結論:訪問看護ステーション経営者のリアルな年収
訪問看護ステーションの立ち上げを考えたとき、最も気になるのは経営者自身の年収でしょう。
様々な情報がありますが、公的な調査データを基にすると、その目安が見えてきます。
事業の成功度合いによって大きく変わるのが実情ですが、まずはリアルな数字を知ることが第一歩です。
事業規模や地域で変わる年収モデル【400万〜1,000万円が目安】
訪問看護ステーションの経営者(オーナー)の年収は、一般的に 約400万円から1,000万円が目安 とされています [1]。
この金額に大きな幅があるのは、ステーションの規模や経営状況、そして地域の需要によって収益が大きく変動するためです。
例えば、事業規模と年収の関係は以下のようにイメージできます。
事業規模(常勤看護職員数) | 月間訪問件数(目安) | 経営者の年収(目安) | 特徴 |
---|---|---|---|
小規模(2.5人〜4人) | 200件〜350件 | 400万円〜600万円 | ・経営者自身もプレイングマネージャーとして現場に出ることが多い ・固定費を抑えやすく、安定経営を目指しやすい |
中規模(5人〜9人) | 400件〜800件 | 600万円〜900万円 | ・管理業務に専念しやすくなる ・安定した収益が見込めるが、人材マネジメントが重要になる |
大規模(10人以上) | 800件以上 | 900万円〜1,000万円以上 | ・複数事業所の展開も視野に入る ・高い収益性が見込めるが、高度な経営手腕が求められる |
あくまでも一例ですが、事業の成長と共に年収も上がっていく可能性を秘めていることがわかります。
経営者の「役員報酬」とステーションの「利益」は別物
ここで注意したいのが、経営者個人の収入である「役員報酬」と、会社(ステーション)の「利益」は会計上まったくの別物だということです。
経営初心者の方は混同しがちですが、この違いを理解することが長期的な事業成功の鍵となります。
簡単に言うと、売上から経費を差し引いたものが「利益」であり、その利益の中から経営者自身の給与として「役員報酬」が支払われます。
項目 | 意味合い | ポイント |
---|---|---|
利益 | ステーション全体の儲け | ・税金の計算対象となる ・将来の設備投資や人材採用のための原資になる |
役員報酬 | 経営者個人の給与 | ・会社の経費として計上される ・一度決めると原則1年間は変更できない |
得られた利益のすべてを役員報酬にするのではなく、一部を会社内部に留保し、サービスの質向上や事業拡大のために再投資することが、持続可能な経営に繋がります。
訪問看護ステーションは儲かる?売上と費用の収支構造を解剖
経営者の年収を具体的にイメージするためには、事業全体の「お金の流れ」を理解する必要があります。
訪問看護ステーションの収益は、どのような仕組みで成り立っているのでしょうか。
ここでは、売上と費用の内訳を詳しく見ていき、事業の収益性を解剖していきます。
売上の2本柱「介護報酬」と「医療保険」の仕組み
訪問看護ステーションの売上の大部分は、公的な保険制度から支払われる報酬で成り立っています。
その収入源は、大きく分けて「介護保険」と「医療保険」の2つです。
利用者の状態や年齢によって、どちらの保険が適用されるかが決まります。
保険の種類 | 主な対象者 | サービス内容の例 | 1回あたりの単価(目安) |
---|---|---|---|
介護保険 | 65歳以上で要介護・要支援認定を受けた方 | ・身体介護(入浴、排泄介助など) ・生活援助(掃除、買い物など) |
8,000円〜12,000円 |
医療保険 | ・40歳未満の方 ・特定の疾患を持つ方 ・要介護認定を受けていない方 |
・点滴、褥瘡の処置など医療的なケア ・病状の観察、医師との連携 |
8,000円〜12,000円 |
このように、提供するサービスに応じて国が定めた単価が報酬として支払われる仕組みが、事業の安定性を支えています。
利益を最大化する「訪問件数」と「各種加算」の重要性
売上を伸ばし、利益を最大化するためには、2つの重要なポイントがあります。
1つは、単純に 訪問件数を増やすこと です。
効率的な訪問ルートを計画し、スタッフの稼働率を上げることで、売上のベースが向上します。
もう1つは、各種「加算」を漏れなく算定すること です。
加算とは、特定の条件を満たすサービスを提供した場合に、基本報酬に上乗せされる追加報酬のことです。
主な加算の名称 | 概要 | 収益へのインパクト |
---|---|---|
緊急時訪問看護加算 | 利用者からの緊急の求めに応じて、24時間対応できる体制を整えている場合に算定。 | 安定した収益基盤となる。 |
特別管理加算 | 医療機器を装着しているなど、特別な管理が必要な利用者へサービスを提供した場合に算定。 | 専門性の高いケアが収益に直結する。 |
24時間対応体制加算 | 24時間連絡できる体制を確保し、必要に応じて訪問看護を行える体制を評価する加算。 | 利用者の安心感に繋がり、選ばれる理由になる。 |
これらの加算を適切に取得することが、同じ訪問件数でも収益を大きく左右する重要な経営戦略となります。
【総額500万〜1,500万円】ステーション立ち上げに必要な全費用
独立開業にあたり、最も大きなハードルとなるのが資金の問題です。
訪問看護ステーションをゼロから立ち上げるには、一体どれくらいの費用が必要になるのでしょうか。
一般的に、総額で500万円から1,500万円が目安 と言われています [2]。
この費用は、大きく「初期費用」と「運転資金」の2つに分けられます。
それぞれどのようなことにお金がかかるのか、具体的な内訳を見ていきましょう。
開業時に必要な初期費用(法人設立・事務所・備品など)
初期費用とは、事業を開始する前に一度だけ必要となる費用のことです。
主に、法人格の取得や事業所の準備にかかる費用が含まれます。
目安としては、500万円から800万円程度 を見ておくとよいでしょう [3]。
費用項目 | 目安金額 | ポイント・備考 |
---|---|---|
法人設立費用 | 約30万円 | 株式会社か合同会社かによって費用が変動。司法書士などに依頼する場合は別途手数料が必要。 |
事務所関連費用 | 50万円〜100万円 | 敷金、礼金、仲介手数料、前家賃など。都心部や駅近など立地によって大きく変動する [4]。 |
設備・備品購入費 | 150万円〜200万円 | 医療機器、パソコン、プリンター、机、椅子、電話、複合機、訪問用の車両など。 |
広告宣伝費 | 20万円〜50万円 | ホームページ制作、パンフレット作成、ケアマネジャーへの挨拶回りにかかる費用など。 |
その他諸経費 | 20万円〜50万円 | ユニフォーム代、賠償責任保険料、採用活動費など。 |
リースや中古品をうまく活用することで、これらの初期費用を抑えることも可能です。
最低6ヶ月分は必須!事業を軌道に乗せるための運転資金(人件費など)
運転資金は、事業が軌道に乗り、安定した収益が上がるまでの間、経営を維持していくために不可欠なお金です。
特に、報酬の入金がサービス提供から約2ヶ月後になるため、最低でも6ヶ月分の運転資金 を準備しておくことが失敗しないための絶対条件です [5]。
目安としては、300万円から900万円程度 が必要となります。
費用項目 | 月額目安 | ポイント・備考 |
---|---|---|
人件費 | 150万円〜300万円 | 支出の約7割を占める最大の経費。管理者、看護師、事務員などの給与、社会保険料など。 |
事務所家賃 | 10万円〜30万円 | 事務所の規模や立地によって変動。 |
車両関連費 | 5万円〜15万円 | ガソリン代、駐車場代、保険料、リース料など。 |
通信費 | 1万円〜3万円 | 電話代、インターネット利用料、システム利用料など。 |
消耗品費 | 1万円〜3万円 | 衛生材料(ガーゼ、消毒液など)、事務用品、コピー用紙など。 |
これらの運転資金が尽きてしまう「資金ショート」が、廃業の最も多い原因の一つです。
余裕を持った資金計画を立てることが極めて重要になります。
自己資金が少なくても大丈夫!賢い資金調達の方法
「1,000万円もの大金、どうやって準備すればいいのか…」と不安に思うかもしれません。
しかし、自己資金が潤沢でなくても、独立開業の夢を諦める必要はありません。
国や地方自治体は、新しい事業を始める起業家を支援するための様々な制度を用意しています。
ここでは、比較的利用しやすく、有利な条件で資金を調達できる代表的な方法を2つ紹介します。
無担保・無保証人も可能!日本政策金融公庫の「新創業融資制度」
起業時の資金調達として、最も多くの人が利用するのが 日本政策金融公庫 の融資制度です。
政府系の金融機関であるため、民間の銀行に比べて低金利で、これから事業を始める人にも積極的に融資を行っています。
特に「新創業融資制度」は、これから訪問看護ステーションを立ち上げる方に適した制度です。
制度名 | 融資上限額 | 利率(年利) | 主な特徴 |
---|---|---|---|
新創業融資制度 | 3,000万円 | 1.5%〜2.5%程度 | ・原則、無担保・無保証人で利用可能 ・事業計画書の質が審査の重要なポイントになる ・返済期間が長く設定できる |
しっかりとした事業計画書を作成し、事業への熱意と実現可能性を伝えることができれば、開業資金の大きな助けとなります [6]。
返済不要!活用すべき国や自治体の助成金・補助金
助成金や補助金は、国や地方自治体が政策目標を達成するために支給するお金で、原則として返済が不要 という大きなメリットがあります。
訪問看護ステーションの立ち上げに活用できる代表的なものには、以下のような制度があります。
助成金・補助金の種類 | 管轄 | 対象となる経費の例 | 支給額の目安 |
---|---|---|---|
キャリアアップ助成金 | 厚生労働省 | 非正規雇用のスタッフを正社員化した場合の人件費の一部 | 1人あたり最大70万円 |
業務改善助成金 | 厚生労働省 | 業務効率化のためのITシステム導入費用など | 最大600万円 |
創業助成金 | 各地方自治体 | 事務所の家賃、広告宣伝費、備品購入費など、創業期に必要な経費全般 | 自治体による(例:東京都で最大300万円) |
これらの制度は申請期間や要件が細かく定められているため、常に最新の情報をチェックし、専門家のアドバイスを受けながら活用を検討するのがおすすめです。
立ち上げで失敗しないために。リアルな廃業リスクと対策
訪問看護事業は社会的な需要が高く、将来性のある分野ですが、一方で廃業に至るステーションも少なくありません。
理想だけでなく、厳しい現実も直視し、予めリスクを把握して対策を講じることが、事業を長く続けるためには不可欠です。
ここでは、立ち上げで失敗する主な理由と、それを避けるための具体的な対策を解説します。
主な失敗理由(リスク) | なぜそれが失敗に繋がるのか | 具体的な対策 |
---|---|---|
事業計画の甘さ | 収支の見通しが楽観的すぎると、想定外の支出に対応できず資金ショートに陥る。 | ・専門家のアドバイスを受け、現実的な収支計画を立てる ・採算ラインを明確にし、黒字化までの具体的な道筋を描く |
資金不足 | 開業後の運転資金が枯渇し、給与の支払いや経費の支払いができなくなる。 | ・初期費用だけでなく、最低6ヶ月分の運転資金を確保する ・融資や助成金を最大限活用し、手元資金に余裕を持たせる |
人材不足 | 看護師などの専門職が確保できず、人員基準を満たせなくなったり、利用者を受け入れられなくなったりする。 | ・給与だけでなく、働きやすい職場環境(休日、研修制度など)を整備する ・地域の看護師コミュニティとの繋がりを構築する |
利用者(集客)不足 | 地域のケアマネジャーや医療機関との連携がうまくいかず、利用者を紹介してもらえない。 | ・開業前から地域の関係機関へ挨拶回りを徹底する ・自社の強みや専門性を明確にし、積極的に情報発信する |
これらのリスクは、どれか一つでも欠けると経営を揺るがす大きな問題に発展します。
入念な準備と計画こそが、最大のリスクヘッジとなるのです。
年収1,000万円を目指す!事業を成功に導く5つの戦略
失敗のリスクを乗り越え、安定した経営基盤を築き、さらには年収1,000万円という目標を達成するためには、どのような戦略が必要なのでしょうか。
ここでは、数多くの成功事例に共通する5つの重要なポイントを解説します [7]。
これらは、これからあなたがステーションを運営していく上での羅針盤となるはずです。
① 地域のニーズを徹底調査し、自社の強みを明確にする
成功の第一歩は、事業を行う「地域」を深く理解することから始まります。
やみくもにステーションを開設するのではなく、まずは地域の特性を分析しましょう。
- 地域の高齢化率や要介護認定者数
- 近隣の医療機関や介護施設の種類と数
- 競合となる他の訪問看護ステーションの数とその特徴
これらの情報を「介護サービス情報公表システム」などを活用して調査し、「この地域ではターミナルケアの需要が高い」「小児の在宅医療に対応できるステーションが少ない」といったニーズを把握します [8]。
その上で、「うちはがん末期患者の緩和ケアに特化する」「理学療法士を配置してリハビリに強みを持つ」など、自社の強みを明確に打ち出すことが差別化に繋がり、選ばれるステーションになります。
② 働きがいのある環境づくりで、優秀な人材を確保・育成する
訪問看護事業の品質は、そこで働くスタッフの質に直結します。
しかし、看護師不足が深刻な現在、優秀な人材を確保し、長く働き続けてもらうことは容易ではありません。
だからこそ、給与や待遇だけでなく、「働きがい」を感じられる職場環境づくりが極めて重要になります。
課題 | 具体的な施策例 |
---|---|
採用が難しい | ・給与水準を地域相場以上に設定する ・ホームページやSNSで職場の魅力を積極的に発信する |
定着率が低い | ・柔軟な勤務体系(時短勤務、週休3日制など)を導入する ・定期的な面談でキャリアプランを共有し、成長を支援する |
スキルアップ | ・外部研修への参加費用を補助する ・資格取得支援制度を設ける |
スタッフ一人ひとりを大切にし、その成長を支援する姿勢が、結果的にサービスの質を高め、ステーションの成長を支える基盤となります。
③ 【独自情報】競合調査と集客に「みつける訪看ex」を戦略的に活用する
事業を成功させるには、効果的な情報収集と集客活動が欠かせません。
そこでおすすめしたいのが、全国7,852ヶ所以上(2025年9月時点)の訪問看護ステーション情報を掲載するポータルサイト「みつける訪看ex」の戦略的活用です。
このプラットフォームは、開業のフェーズに応じて強力なツールとなり得ます。
フェーズ | 具体的な活用法 |
---|---|
開業準備期 | 競合調査ツールとして活用 ・開業予定エリアの競合ステーションの数、サービス内容(ALS対応、小児対応など)、人員体制(理学療法士の有無など)を詳細に分析し、自社の差別化戦略を練る。 |
開業後 | 集客・マーケティングツールとして活用 ・詳細な情報を掲載し、地域の利用者やケアマネジャーに自社の強みをアピールする。 ・担当者の動画や推薦コメントを掲載し、問い合わせ前の不安を払拭して信頼感を醸成する。 |
特に、ALS対応ステーションの絞り込み機能や担当者動画の掲載は、多くの競合サイトにはない「みつける訪看ex」の強みです。
これらの機能を最大限に活用することで、効率的に自社の存在をアピールし、利用者の獲得に繋げることができます。
機能 | みつける訪看ex | 競合サイトA社 |
---|---|---|
掲載ステーション数 | 7,852ヶ所以上 | 約6,543ヶ所 |
ALS対応ステーション絞り込み | 〇 | × |
担当者動画掲載 | 〇 | × |
まとめ:訪問看護ステーションの立ち上げは、入念な準備が年収と成功の鍵
訪問看護ステーションの立ち上げは、臨床経験を活かして地域医療に貢献できる、非常にやりがいのある挑戦です。
経営者として年収1,000万円を目指すことも、決して夢物語ではありません。
しかし、その成功の裏には、この記事で解説してきたような入念な準備と計画が不可欠です。
- リアルな年収と収支構造を理解し、事業計画を立てること。
- 必要な費用を把握し、余裕を持った資金計画を立てること。
- 融資や助成金を賢く活用し、資金を調達すること。
- 失敗のリスクを直視し、具体的な対策を講じること。
- 地域ニーズを捉え、選ばれるための経営戦略を練ること。
これらのステップを一つひとつ着実にクリアしていくことが、あなたの理想とするステーションを実現し、安定した経営と十分な収入を得るための最も確実な道筋です。
まずは情報収集をさらに深め、あなた自身の事業計画書を作成することから始めてみてはいかがでしょうか。
その一歩が、大きな夢を実現するための始まりとなります。