訪問看護ステーションの運営において、日々の請求業務は非常に重要です。
しかし、「減算ルールが複雑でよくわからない」「制度改定のたびに情報を追いかけるのが大変」「万が一、請求ミスをしてしまったらどうしよう」といった不安を感じている管理者様や請求担当者様は少なくないでしょう。
特に2024年度の報酬改定では、事業所の運営体制そのものに関わる新たな減算が導入され、正確な理解と対策がこれまで以上に求められています。
この記事では、訪問看護の「減算」について、最新の2024年度改定情報を中心に、その全体像を網羅的に解説します。
図や表を多く用いて、複雑なルールを一つひとつ丁寧に紐解いていきます。
この記事を最後までお読みいただくことで、日々の業務における不安や迷いを解消し、法令を遵守した健全な事業所運営を実現するための確かな知識が身につきます。
まずはおさらい!訪問看護における「減算」の基本
訪問看護における「減算」とは、特定の要件を満たさない場合に、本来算定できる単位数(報酬)が減額される仕組みのことです。
「減算」と聞くと、罰則のようなネガティブな印象を持たれるかもしれません。
しかし、これはサービスの質を一定水準以上に保ち、制度の公平性を確保するために設けられた重要なルールなのです。
減算の対象となる項目を正しく理解し、適切な対策を講じることは、請求ミスによる返戻や報酬の減少を防ぐだけでなく、事業所のサービス提供体制そのものを見直す良い機会にもなります。
つまり、減算への対応は、事業所の安定経営に直結する不可欠な業務と言えるでしょう。
【2024年度改定】3つの重要減算を徹底解説!今すぐ対策すべきポイント
2024年度の介護報酬・診療報酬改定では、サービスの質の向上や安全確保を目的として、いくつかの減算が新設・変更されました。
これらは、すべての訪問看護事業所が正しく理解し、迅速に対応すべき重要な項目です。
ここでは、特に影響の大きい3つの減算について、その背景や具体的な対策を詳しく見ていきましょう。
① 業務継続計画(BCP)未策定減算【2025年4月〜】
業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)とは、感染症のまん延や自然災害といった不測の事態が発生しても、必要なサービスを継続するための計画です。
今回の改定で、このBCPを策定していない事業所に対して減算が適用されることになりました。
利用者の命と健康を守るための体制構築が、より一層強く求められています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 減算の概要 | 感染症や災害発生時におけるBCPが未策定の場合に適用されます。 |
| 減算率 | 所定単位数の 1% |
| 適用要件 | – 感染症または災害のいずれか、もしくは両方のBCPが未策定である。 – 計画策定だけでなく、全職員への周知、定期的な研修・訓練を実施していない。 |
| 経過措置 | 2025年 3月 31日までは適用が猶予されます。 |
経過措置期間内に、厚生労働省が示すガイドラインなどを参考に、事業所の実情に合ったBCPを必ず策定しましょう。
策定後は、全職員を対象とした研修やシミュレーション訓練を定期的に行い、計画の実効性を高めていくことが重要です。
② 高齢者虐待防止措置未実施減算【2025年4月〜】
利用者の尊厳を守り、安全なサービス提供を確保する観点から、高齢者虐待防止のための措置が講じられていない場合に適用される減算です。
こちらもBCP未策定減算と同様に、体制整備が求められる項目となります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 減算の概要 | 高齢者虐待の発生または再発を防止するための措置を講じていない場合に適用されます。 |
| 減算率 | 所定単位数の 1% |
| 適用要件 | 以下の措置が一つでも未実施の場合に適用されます。 1. 虐待防止のための対策を検討する委員会の定期的な開催 2. 虐待防止のための指針の整備 3. 虐待防止のための職員への定期的な研修の実施 4. 上記措置を適切に実施するための担当者の設置 |
| 経過措置 | 2025年 3月 31日までは適用が猶予されます。 |
また、関連する項目として「身体拘束等の適正化の推進」も求められています。
形式的に体制を整えるだけでなく、職員一人ひとりが倫理観を高め、利用者本位のケアを実践するための継続的な取り組みが不可欠です。
③ リハビリ専門職(PT・OT・ST)関連の減算見直し
訪問看護の本来の役割である「看護」の視点を重視する観点から、リハビリ専門職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)による訪問に関する減算が見直されました。
看護職員とリハビリ専門職のバランスの取れたサービス提供が求められます。
| 減算の種類 | 改定後の内容 | 適用保険 |
|---|---|---|
| 訪問回数超過減算 | 前年度のPT・OT・STによる訪問回数が、看護職員による訪問回数を上回った場合に、1回につき 8単位を減算します。 | 介護保険・医療保険 |
| 12月超減算 (介護予防訪問看護) | 要支援者がPT・OT・STによる訪問を 12ヶ月を超えて利用した場合に適用されます。 – 訪問回数超過減算(8単位)も適用される場合:追加で 15単位減算 – 訪問回数超過減算が適用されない場合:5単位減算 | 介護保険 |
この減算を避けるためには、看護職員とリハビリ専門職が密に連携し、年間の訪問計画を管理することが不可欠です。
利用者の状態を定期的に評価し、看護の視点からリハビリテーションの必要性を判断する体制を構築しましょう。
【保存版】訪問看護の主な減算項目一覧(介護保険・医療保険)
2024年度改定で注目される減算以外にも、日々の請求業務で注意すべき減算は数多く存在します。
ここでは、主要な減算項目を一覧表にまとめました。
いつでも確認できるよう、ぜひご活用ください。
| 減算項目 | 減算率 / 単位数 | 主な適用要件 | 対象保険 |
|---|---|---|---|
| 業務継続計画(BCP)未策定減算 | 1% | BCP未策定、または研修・訓練が未実施の場合。(2025年 4月 1日~) | 介護保険 |
| 高齢者虐待防止措置未実施減算 | 1% | 虐待防止のための委員会設置、指針整備、研修、担当者配置のいずれかが未実施の場合。(2025年 4月 1日~) | 介護保険 |
| リハビリ専門職の訪問回数超過減算 | 8単位 / 回 | 前年度のPT・OT・STの訪問回数が看護職員の訪問回数を超過した場合。 | 介護保険 医療保険 |
| 12月超減算(介護予防) | 5単位 または 15単位 / 回 | 要支援者がPT・OT・STによる訪問を 12ヶ月を超えて利用した場合。 | 介護保険 |
| 同一建物減算 | 10% または 15% | 事業所と同一建物や隣接敷地の利用者、または同一建物に月 20人以上の利用者がいる場合に適用。 | 介護保険 |
| (参考)同一日の複数回訪問 | 訪問看護療養費Ⅱを算定 | 同一日に同一建物で 3人以上の利用者を訪問した場合に、報酬の低い療養費Ⅱを算定。 | 医療保険 |
| 准看護師による訪問減算 | 10% | 訪問看護を准看護師が行った場合に適用。 | 介護保険 医療保険 |
特に注意したい減算①:同一建物減算
多くの事業所が対象となりうるのが「同一建物減算」です。
訪問の効率性を考慮した報酬調整ですが、介護保険と医療保険で要件が異なるため、正確な理解が必要です 。
| 比較項目 | 介護保険 | 医療保険 |
|---|---|---|
| 減算の考え方 | 報酬から一定割合を減算する | 報酬単価の低い「訪問看護療養費Ⅱ」を算定する |
| 適用要件 | 以下のいずれかに該当する場合 – 事業所と同一敷地内または隣接敷地内の建物の利用者にサービス提供 – 上記以外の同一建物に 1ヶ月の利用者が 20人以上 | 同一日に、同一建物に居住する 3人以上の利用者にサービス提供 |
| 減算率 | – 同一建物に利用者 20人以上 50人未満:10%減算 – 同一建物に利用者 50人以上:15%減算 | 訪問看護療養費Ⅰに比べて低い単位数となる |
「同一敷地内」や「隣接する敷地」の解釈など、判断に迷うケースもあります。
効率的な訪問スケジュールを計画するとともに、不明な点は保険者や管轄の行政機関に確認することが重要です。
特に注意したい減算②:准看護師による訪問減算
准看護師が訪問看護サービスを提供した場合には、所定単位数の 10%が減算されます。
このルールは、事業所の人員配置戦略に大きく影響します。
准看護師は訪問看護において重要な役割を担っていますが、この減算を避けるためには正看護師の配置割合を高める必要があります。
正看護師の採用が難しい現状も踏まえ、准看護師の正看護師資格取得を支援するなど、長期的な視点での人材育成計画も有効な対策となります。
減算は経営を揺るがす?収益への影響と事業所が取るべき戦略的対策
ここまで見てきたように、減算は単なるルールの話ではなく、事業所の経営に直接的な影響を与える重要な要素です。
ここでは、減算がもたらす具体的な影響をシミュレーションし、それを乗り越えるための前向きな戦略について解説します。
減算を「罰則」ではなく、「質の高いサービスへの投資」と捉え直すことが重要です 。
収益・人員配置への具体的な影響シミュレーション
減算が複数重なった場合、事業所の収益にどれくらいのインパクトがあるのでしょうか。
具体的なシナリオで考えてみましょう。
| シミュレーション条件 | |
|---|---|
| 事業所規模 | 月間の総単位数:2,000,000単位 |
| 適用される報酬改定・減算 | ① 2024年度改定による基本報酬の引き下げ(仮に -2%と想定) ② BCP未策定減算(-1%) |
| 影響額の計算 | |
|---|---|
| 基本報酬の減少額 | 2,000,000単位 × 2% = 40,000単位 |
| BCP未策定による減算額 | 2,000,000単位 × 1% = 20,000単位 |
| 合計の月間収入減 | 60,000単位(約 60,000円) |
| 年間の収入減 | 720,000単位(約 720,000円) |
このシミュレーションのように、個々の減算率は小さくても、積み重なることで経営に大きな影響を及ぼします。
また、准看護師減算やリハビリ減算は、正看護師や看護職員の増員といった人件費の増加に繋がる可能性があり、採用コストも含めた計画的な人員配置が求められます。
減算を乗り越えるための3つの戦略的対策
減算のリスクを乗り越え、安定した事業運営を実現するためには、以下の3つの戦略が有効です。
| 戦略の柱 | 具体的なアクションプラン |
|---|---|
| 1. 法令遵守と運営体制の強化 | – BCP・虐待防止策の確実な実施:経過措置期間内に計画策定、研修、委員会設置などを完了させる。 – 記録の徹底:サービス提供の根拠となる記録を正確に作成・保管し、監査に備える。 |
| 2. 多職種連携による最適なケアプラン | – 看護・リハビリの連携強化:定期的なカンファレンスで情報を共有し、訪問回数や内容を共同で管理する。 – ケアプランの共同策定:利用者の状態に応じた最適なプランを策定し、看護の視点を常に反映させる。 |
| 3. ICT/DX活用による業務効率化 | – 電子カルテ・請求システムの導入:記録や請求業務を効率化し、ケアの時間を確保する。 – データに基づいた経営判断:訪問実績や加算・減算の状況を可視化し、リスクの早期発見や経営戦略に活かす。 |
これらの対策は、減算を回避するためだけのものではありません。
業務の効率化、サービスの質の向上、そして職員の働きやすい環境づくりにも繋がり、事業所全体の持続的な成長を支える基盤となります。
これってどうなる?訪問看護の減算に関するQ&A
ここでは、現場の担当者様からよく寄せられる疑問について、Q&A形式でお答えします。
日々の業務で判断に迷った際の参考にしてください。
Q1. リハビリ減算の訪問回数はいつの期間で計算されますか?
A1. 前年度、つまり「4月 1日から翌年 3月 31日まで」の 1年間の実績で判断されます。
年度の終わり際に慌てて調整するのではなく、年間を通じた計画的な訪問スケジュール管理が重要です。
例えば、毎月、看護職員とリハビリ専門職の訪問回数を集計・比較し、バランスを確認する仕組みを作ると良いでしょう。
Q2. 減算の適用を避けるために必要な届出はありますか?
A2. 多くの減算は、特定の「届出」によって回避するものではありません。
BCP未策定減算や高齢者虐待防止措置未実施減算のように、法令で定められた運営基準を満たしていない場合に、自動的に減算が適用される仕組みです。
したがって、届出の有無ではなく、事業所内で適切な体制が整備・運用されているかどうかが最も重要になります。
まとめ:減算の正しい理解が、サービスの質と安定経営の鍵
この記事では、2024年度の改定情報を中心に、訪問看護における減算の全体像と具体的な対策について解説しました。
減算のルールは複雑ですが、その一つひとつは、利用者の安全を守り、より質の高いサービスを提供するために設けられています。
減算を単なるリスクとして恐れるのではなく、自事業所の運営体制を見直し、改善するためのきっかけと捉えることが大切です。
最新の情報を常に収集し、法令を遵守した適切なサービス提供体制を構築することが、結果として利用者の満足度向上と事業所の安定経営に繋がります。
この記事が、皆様の事業所運営の一助となれば幸いです。
訪問看護の減算とは何ですか?
訪問看護の減算とは、特定の要件を満たさない場合に本来算定できる報酬の一部が減額される仕組みです。このルールはサービスの質を維持し、公平性を確保するために設けられています。
2024年度の主要な減算項目は何ですか?
2024年度の主要な減算には、BCP未策定減算、高齢者虐待防止措置未実施減算、それにリハビリ専門職の訪問回数超過減算があります。これらは事業所が適切な対策を講じることを求めています。
減算を避けるために具体的にどんな対策が必要ですか?
減算を回避するためには、法令遵守と運営体制の強化、多職種連携による最適なケアプラン作成、ICTやDXの活用による業務効率化が重要です。これにより、サービスの質を保ちながらリスクを最小限に抑えることができます。
減算の影響は経営にどのように現れるのですか?
減算の積み重ねは、月や年単位で見れば収益の大きな減少につながる可能性があります。正看護師やリハビリ専門職の増員による人件費増加も経営圧迫要因となるため、計画的な人員配置とコスト管理が不可欠です。
よくある質問として、訪問回数の計算期間や届出について何か注意点はありますか?
訪問回数の計算は原則として前年度(4月1日から翌年3月31日まで)が基準です。減算の適用避けには届出は基本的に不要であり、運営体制の適切な整備と運用が最も重要です。