訪問看護ステーションの収益を支える「24時間対応体制加算」。
しかし、その一方で「オンコールが負担でスタッフが疲弊している」「人手が足りず、持続可能な体制を組めない」といった悩みを抱えていませんか。
この記事では、24時間対応体制の基本から、2024年度報酬改定に対応した加算の算定要件、そして最も重要な「スタッフの負担を減らしながら持続可能な体制を築く運営ノウハウ」までを網羅的に解説します。
加算を正しく算定してステーションの経営を安定させ、同時にスタッフがいきいきと働ける環境を整えるための具体的なヒントが満載です。
そもそも訪問看護の24時間対応は義務?【制度の基本を解説】
訪問看護の24時間対応について、まず多くの事業者が最初に抱く疑問は「これは法的な義務なのか?」という点でしょう。
このセクションでは、制度の最も基本的な部分を明確にし、24時間対応体制が訪問看護においてどのような位置づけにあるのかを解説します。
ここを理解することで、後の加算や運営体制に関する知識がスムーズに頭に入ってくるはずです。
法的義務ではないが、利用者の安心を支える重要な体制
結論から言うと、訪問看護ステーションが24時間対応体制を整備することは、法的な義務ではありません。
しかし、実際には多くの訪問看護ステーションがこの体制を導入しています。
その背景には、在宅で療養する利用者とその家族の「夜間や休日に何かあったらどうしよう」という強い不安があります。
24時間いつでも専門家である看護師に相談でき、必要であれば駆けつけてくれる体制は、利用者が安心して在宅療養を続けるための生命線とも言えるのです。
この体制は、地域包括ケアシステムの中で訪問看護ステーションが果たすべき重要な役割の一つとして、社会的に強く期待されています。
【2024年度改定対応】訪問看護の「24時間対応体制加算」を徹底解説
24時間対応体制を整備する事業所にとって、経営の安定化に直結するのが「24時間対応体制加算」です。
この加算は、制度の変更が頻繁に行われるため、常に最新の情報を正確に把握しておく必要があります。
ここでは、2024年度の診療報酬改定内容を反映した加算の種類、算定要件、報酬額について詳しく解説します。
請求漏れや誤請求といった経営リスクを回避し、正しく収益を確保するための知識を身につけましょう。
算定要件と報酬額|加算「イ」「ロ」の違いが経営を左右する
2024年度の診療報酬改定で、24時間対応体制加算は看護業務の負担軽減への取り組みを評価する観点から、新たに2つの区分に分けられました。
「イ」を算定できるかどうかは、報酬額だけでなく、スタッフの働きやすい環境づくりにも繋がるため、経営上の重要なポイントとなります。
| 区分 | 報酬額(月1回) | 主な算定要件 |
|---|---|---|
| 24時間対応体制加算(イ) | 6,800円 | 24時間対応体制を整備し、看護業務の負担軽減に関する取り組みを複数実施している。 |
| 24時間対応体制加算(ロ) | 6,520円 | 上記(イ)以外の24時間対応体制を整備している。 |
▼加算(イ)算定の鍵となる「看護業務の負担軽減の取り組み」
加算(イ)を算定するには、以下の取り組みのうち、1つ目または2つ目を含む2つ以上を実施し、届け出る必要があります。
| 取り組み内容 | 具体例 | |
|---|---|---|
| 1 | 夜間対応を行った看護師に対し、勤務間隔を確保する | 対応終了時刻から次の勤務開始まで11時間以上の間隔を空ける |
| 2 | 夜間対応の勤務回数に上限を設け、特定の看護師に負担が集中しないようにする | 連続オンコール回数を2回までとする |
| 3 | 夜間対応後に休日を確保する | オンコール当番の翌日は原則休日とする |
| 4 | ICT、AI、IoT等の活用により業務負担を軽減する | 遠隔モニタリング機器の導入、緊急度判定支援アプリの活用 |
| 5 | オンコール担当者への支援体制を整備する | 管理者や他の看護師がいつでも相談に応じられる体制、緊急訪問に同行できる体制 |
医療保険と介護保険「緊急時訪問看護加算」との違いと注意点
実務において混同しやすいのが、医療保険の「24時間対応体制加算」と、介護保険の「緊急時訪問看護加算」です。
両者は似ているようで、対象者や算定要件が異なります。
誤った請求を防ぐためにも、両者の違いを正確に理解しておくことが不可欠です。
| 項目 | 24時間対応体制加算(医療保険) | 緊急時訪問看護加算(介護保険) |
|---|---|---|
| 対象保険 | 医療保険 | 介護保険 |
| 対象者 | 在宅で療養を行う患者 | 要介護認定(要支援は除く)を受けている利用者 |
| 主な算定要件 | ・24時間連絡・相談できる体制 ・緊急時の訪問看護体制 ・利用者への説明と同意 | ・24時間連絡・相談できる体制 ・緊急時の訪問看護体制 ・ケアマネジャーとの連携 |
| 報酬 | 6,800円 または 6,520円/月 | 574単位/月 |
| 併算定 | 原則として、同月内の併算定は不可 | 原則として、同月内の併算定は不可 |
| その他 | 1人の利用者に対し、1つのステーションのみ算定可能 | 計画外の緊急訪問を行った場合は、別途「緊急時訪問看護加算(I)」または「(II)」を算定 |
加算算定に必要な届出と手続きの流れ
24時間対応体制加算を算定するためには、事前に地方厚生(支)局へ届出を行う必要があります。
手続き自体は複雑ではありませんが、書類に不備がないよう、流れをしっかり確認しておきましょう。
- 必要書類の準備
「訪問看護ステーションの基準に係る届出書」や、加算の要件を満たしていることを示す添付書類(体制一覧表など)を準備します。様式は管轄の地方厚生局のウェブサイトからダウンロードできます。 - 届出書の作成
記載例を参考に、事業所の情報を正確に記入します。特に、加算(イ)を算定する場合は、実施している負担軽減策について具体的に記載する必要があります。 - 提出
管轄の地方厚生(支)局へ郵送または持参して提出します。提出期限が定められている場合があるため、事前に確認することが重要です。 - 受理と算定開始
書類が受理されれば、届出が完了した月の翌月から(または月の初日に受理されれば当月から)加算を算定できるようになります。
スタッフの疲弊を防ぐ!持続可能な24時間対応体制の作り方
制度を理解し、加算を算定することは重要ですが、それ以上に大切なのは、その体制を「持続」させることです。
看護師の自己犠牲の上に成り立つ体制は、いずれ必ず破綻します。
このセクションでは、スタッフの心身の負担を軽減し、誰もが安心して働き続けられる24時間対応体制を構築するための、具体的な運営ノウハウを解説します。
【事例あり】緊急時対応マニュアルに盛り込むべき3つの必須項目
緊急時の対応が特定のベテラン看護師の経験と勘に頼っている状態は非常に危険です。
誰が対応しても一定のサービス品質を担保し、スタッフが安心して判断できるように、実用的なマニュアルを整備しましょう。
- 1. 連絡相談のフロー図
利用者や家族から電話が入ってから、電話対応、緊急訪問、主治医への報告、記録までの一連の流れを視覚的に示したフロー図を作成します。
これにより、対応すべき手順が一目で分かり、抜け漏れを防ぎます。 - 2. 緊急度・重症度の判断基準
どのような場合に緊急訪問が必要か、客観的な判断基準を設けます。
具体的な症状やバイタルサインの数値を基準として示すことで、個人の判断のばらつきをなくし、適切な対応を促します。
| 症状・状態 | 判断 | 対応例 |
|---|---|---|
| 意識レベルの低下、痙攣が止まらない、激しい呼吸困難 | 【高】即時訪問 | すぐに訪問準備。必要に応じて救急要請を家族に指示。主治医へ即時報告。 |
| 38.5℃以上の発熱、嘔吐が続く、転倒したが外傷は軽微 | 【中】訪問検討 | 電話で詳細な状態を確認。主治医に指示を仰ぎ、必要なら訪問。 |
| 不安の訴え、眠れない、薬の飲み方が分からない | 【低】電話対応 | 傾聴と共感を示し、必要な情報提供や助言を行う。次回の訪問時に再度確認。 |
- 3. 多職種への連携方法
主治医、ケアマネジャー、地域の病院など、関係機関への連絡が必要なケースと、その際の連絡先、報告内容を明確に定めておきます。
「誰に」「いつ」「何を」報告するのかをルール化することで、スムーズな連携が実現します。
オンコール負担を劇的に減らす5つの工夫(ICT活用・連携体制)
オンコールは看護師にとって大きなストレス源であり、離職の引き金にもなりかねません。
以下のような工夫を取り入れ、特定のスタッフに負担が偏らない、公平で持続可能な体制を目指しましょう。
- 明確なルールに基づく勤務体制
前述の加算(イ)の要件にもあるように、勤務間隔の確保や連続オンコール回数の制限、当番後の休日設定などを就業規則として明確に定めます。 - 複数事業所による連携オンコール
近隣の訪問看護ステーションと連携し、輪番制で夜間対応を担当する体制です。
1事業所あたりのオンコール頻度を大幅に減らすことができます。 - ICT・AIツールの積極的活用
利用者の自宅にセンサーや遠隔モニタリング機器を設置し、異常を検知した際に通知が来る仕組みを導入します。
これにより、不要な電話対応を減らし、本当に対応が必要なケースに集中できます。 - オンコール担当者への手厚い支援
オンコール手当を負担に見合った額に設定するだけでなく、管理者や他のスタッフがいつでも相談に乗れるバックアップ体制を構築します。
精神的なサポートが、担当者の安心感に繋がります。 - 効率的な情報共有
クラウド型の電子カルテなどを活用し、オンコール担当者がいつでもどこでも利用者の最新情報を確認できるようにします。
これにより、電話口で慌てたり、情報の行き違いが起きたりするのを防ぎます。
事業者・利用者双方から見たメリット・デメリット
24時間対応体制は、事業者、利用者それぞれに多くのメリットをもたらす一方で、無視できないデメリットも存在します。
サービスを導入・運営する事業者も、利用を検討する利用者やケアマネジャーも、両側面を理解しておくことが重要です。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 事業者側 | – 加算算定による収益の向上と経営の安定化 – 地域での信頼獲得と他法人との差別化 – 医療機関やケアマネジャーからの紹介増加 | – オンコール等による看護師の精神的・身体的負担 – 人材確保の困難さ(特にオンコール対応可能な人材) – 人件費や通信費などの運営コスト増加 |
| 利用者・家族側 | – 夜間・休日の急変時でも安心できるという精神的安定 – 状態悪化の早期発見と重症化予防 – 不要な救急搬送や入院の回避 – 住み慣れた自宅での看取りが可能になる | – 月々の利用料に加算分の費用負担が発生する – 事業所によっては、対応の質にばらつきがある可能性 |
訪問看護24時間対応の未来|人材不足・報酬改定を乗り越えるには
訪問看護を取り巻く環境は、高齢化の進展、人材不足の深刻化、そして定期的な報酬改定によって常に変化しています。
目先の課題に対応するだけでなく、数年先を見据えた戦略を持つことが、ステーションの持続的な成長には不可欠です。
ここでは、訪問看護の未来を左右する大きなトレンドと、それらにどう対応していくべきかを考察します。
人材不足と地域差という大きな課題への対策
日本の生産年齢人口が減少する中、看護・介護人材の不足はますます深刻化しています。
特に、都市部と過疎地域では訪問看護ステーションの数に大きな差があり、地域によっては必要なサービスを受けられない「介護難民」が生まれる懸念も指摘されています。
この大きな課題に対しては、一つの事業所の努力だけでは限界があり、国や地域全体での取り組みが求められます。
- 処遇改善とキャリアパスの整備
魅力的な給与体系やキャリアアップの道筋を示すことで、人材の定着を図ります。 - 外国人材の活用
制度的なサポートを活用し、多様な人材が活躍できる環境を整備します。 - 地域内の事業所間連携
人材や情報を共有し、地域全体でリソースを有効活用する仕組みを構築します。
2026年度報酬改定の方向性|ICT活用と多職種連携が鍵
2026年度に予定されている次期診療報酬改定では、在宅医療分野において更なる見直しが進むと予測されています。
特に、ICTの活用と多職種連携は、今後の訪問看護の質と効率を左右する重要なテーマです。
今のうちからこれらのテーマに積極的に取り組むことが、将来の改定に対応し、他社との差別化を図る鍵となります。
| 2026年度改定で注目されるポイント | 事業者が今から取り組むべきこと |
|---|---|
| 訪問回数によらない包括的な評価 | 一人ひとりの利用者に合わせた、質の高いケアプランの作成能力を高める。 |
| 重症者や看取りへの対応の更なる評価 | 医療依存度の高い利用者や終末期のケアに関する専門知識・技術の習得、スタッフ研修の実施。 |
| ICT・AIの本格的な活用推進 | 電子カルテの導入はもちろん、遠隔モニタリングや情報共有ツールなど、業務効率化に繋がる技術を積極的に情報収集・試用する。 |
| 地域における多職種連携の強化 | 地域の医師会や病院、ケアマネジャー連絡会などに積極的に参加し、顔の見える関係を構築する。 |
まとめ:利用者の安心と健全なステーション経営を両立するために
訪問看護における24時間対応体制は、在宅療養を支える上で不可欠なサービスです。
それは、利用者にかけがえのない「安心」を提供すると同時に、ステーションにとっては安定した経営基盤を築くための重要な要素となり得ます。
しかし、その体制がスタッフの過重な負担の上に成り立っていては、サービスの質を維持することも、事業を継続することも困難になります。
重要なのは、2024年度改定で示されたように「看護業務の負担軽減」を経営の中心に据え、適切な加算を算定しながら、持続可能な運営モデルを構築することです。
この記事で紹介したマニュアルの整備、ICTの活用、そして未来を見据えた戦略を参考に、利用者の安心とスタッフの働きがい、そして健全なステーション経営をぜひ両立させてください。
訪問看護ステーションの24時間対応体制は義務ですか?
いいえ、訪問看護ステーションの24時間対応は法的義務ではありませんが、患者や家族にとって安心を支える重要な体制とされています。
2024年度の診療報酬改定における24時間対応体制加算の内容は何ですか?
2024年度改定では、24時間対応体制加算は「イ」と「ロ」の2区分になり、それぞれ看護業務負担軽減の取り組みの内容に応じた報酬が設定されています。
加算(イ)」を算定するための具体的な取り組みは何ですか?
加算(イ)を算定するには、夜間対応を行う看護師の勤務間隔確保や勤務回数に上限を設けるなど、看護業務の負担軽減策を2つ以上実施し、届け出る必要があります。
医療保険と介護保険の加算の違いは何ですか?
医療保険の24時間対応体制加算は在宅療養患者向けで、介護保険の緊急時訪問看護加算は要介護者を対象とし、算定要件や対象が異なります。
持続可能な24時間対応体制を築くためのポイントは何ですか?
スタッフの心身負担を軽減し、ICTや多職種連携を活用するなど、負担軽減策を講じながら体制を運営し、働きやすい環境を整えることが重要です。