訪問看護ステーションの開設や運営を考えたとき、多くの方がその複雑な「届出」の手続きに頭を悩ませるのではないでしょうか。
「どの書類を、いつ、どこに提出すればいいのか分からない」
「基準を満たしているか不安で、申請が遅れてしまうかもしれない」
「加算を取りこぼして、経営が不安定になったらどうしよう」
このような不安を抱えるのは、あなただけではありません。
訪問看護の届出は、専門用語が多く、行政機関によって様式も異なるため、非常に分かりにくいのが実情です。
しかし、ご安心ください。
この記事では、専門外の方でも理解できるよう、訪問看護ステーションの届出に関する全てを網羅した完全ガイドをお届けします。
この記事を最後まで読めば、必要な手続きの全体像から、具体的な書類の書き方、そして収益を最大化するための加算届出まで、明確に理解できます。
手戻りや遅延のリスクを最小限に抑え、スムーズな事業開始と安定した運営を実現するための一助となれば幸いです。
訪問看護ステーションの届出とは?全体像と法的根拠を理解する
訪問看護ステーションの運営は、公的な医療保険・介護保険制度のもとで行われる社会的な事業です。
そのため、事業を開始・運営するには、国が定めたルールに従い、行政機関から「指定」を受け、必要な事項を「届出」することが法律で義務付けられています。
この手続きは、提供されるサービスの質を担保し、利用者が安心してサービスを受けられるようにするための重要な仕組みです。
主に「介護保険法」と「健康保険法(医療保険)」という2つの法律が関わってきます。
| 項目 | 介護保険法に基づく指定 | 健康保険法に基づく指定 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 介護保険法 | 健康保険法 |
| 申請先 | 事業所の所在地を管轄する都道府県または市区町村 | 事業所の所在地を管轄する地方厚生局 |
| 特徴 | この指定を受けると、健康保険法の「みなし指定」が適用される | 介護保険法の指定を受けずに、医療保険の訪問看護のみを行う場合に必要 |
| 実務上の位置づけ | ほとんどのステーションが、まずこちらの指定取得を目指します | 介護保険の指定を受けないケースは稀で、実務上は少ないです |
多くの訪問看護ステーションは、まず「介護保険法」に基づく指定を受けることから始めます。
この指定を受けると、自動的に「健康保険法」に基づく訪問看護事業者としても指定されたとみなされます。
これを「みなし指定」と呼び、この仕組みによって、一つの申請手続きで介護保険と医療保険、両方のサービス提供が可能になるのです。
【完全マニュアル】訪問看護ステーション新規開設の指定申請・届出ステップ
それでは、具体的に訪問看護ステーションを新規に開設する際の手順を解説します。
このセクションは、手続き全体を3つのステップに分けたマニュアル形式になっています。
この通りに進めれば、迷うことなく申請準備を進めることができるでしょう。
ステップ1:法人格の取得と3つの指定基準(人員・設備・運営)のクリア
指定申請を行う大前提として、まず事業の「器」と「体制」を整える必要があります。
具体的には、「法人格の取得」と国が定める「3つの指定基準」をクリアすることが必須です。
1. 法人格の取得
訪問看護事業は個人事業では行えません。
必ず、以下のいずれかの法人格を取得する必要があります。
| 法人格の種類 | 主な特徴 |
|---|---|
| 株式会社・合同会社 | 営利法人。設立が比較的容易で、迅速な意思決定が可能。 |
| 医療法人 | 非営利法人。医療サービスの提供を主目的とし、税制上の優遇措置がある。 |
| 社会福祉法人 | 非営利法人。社会福祉事業を主目的とし、高い公共性と信頼性を持つ。 |
| NPO法人 | 非営利法人。特定の非営利活動を目的とし、社会貢献性が高い。 |
2. 3つの指定基準
厚生労働省は、サービスの質を担保するために、以下の3つの基準を定めています。
| 基準の種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 人員基準 | 職員の資格や人数に関する基準です。サービスの質に直結する最も重要な項目です。 |
| 設備基準 | 事業所の広さや必要な備品に関する基準です。安全で効率的な業務環境が求められます。 |
| 運営基準 | 事業運営のルールや利用者保護に関する基準です。透明性と倫理性が問われます。 |
特に重要な「人員基準」では、保健師、看護師、准看護師を常勤換算で 2.5 名以上配置することが求められます。
このうち1名は常勤の管理者である必要があり、管理者は原則として保健師または看護師の資格が必要です。
| 職種 | 要件 |
|---|---|
| 看護職員 | 保健師、看護師、准看護師を常勤換算で2.5名以上配置。 |
| 管理者 | ・常勤かつ専従であること。 ・原則として保健師または看護師の資格を持つこと。 ・管理業務に支障がなければ、ステーション内の他の職務との兼務は可能。 |
| 理学療法士等 | 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を実情に応じて配置可能。 |
「設備基準」では、事業運営に必要な広さを持つ専用の事務室や、プライバシーに配慮した相談スペース、鍵付きの書庫などが求められます。
「運営基準」では、事業の目的や運営方針を定めた「運営規程」を作成し、利用者への説明や同意、苦情処理体制の整備などが義務付けられています。
ステップ2:事前相談から指定通知書交付までの申請フロー
基準を満たす見込みが立ったら、次はいよいよ行政への申請手続きに入ります。
自治体によって細部は異なりますが、おおむね以下の流れで進みます。
計画的に進めるためにも、全体のスケジュール感を把握しておきましょう。
| 時期(目安) | 手続きの内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 指定月の4ヶ月前 | 新規指定前研修の申込・受講 | 管理者等が、自治体主催の研修に参加します。法制度や運営基準の理解を深める重要な機会です。 |
| 指定月の3ヶ月前 | 行政との事前協議(事前相談) | 申請書類を提出する前に、担当窓口と計画内容について相談します。この段階で疑問点を解消し、不備をなくすことが重要です。 |
| 指定月の2ヶ月前 | 指定申請書類の提出 | 決められた様式の申請書と添付書類一式を提出します。提出期限は厳守です。 |
| 指定月の前月 | 実地調査(書類審査) | 行政の担当者が事業所を訪問し、設備や運営体制が申請内容と合致しているかを確認します(自治体による)。 |
| 指定月の前月末 | 指定通知書の交付 | 全ての審査をクリアすると、指定通知書が交付されます。 |
| 指定月1日 | 事業開始 | 指定通知書に記載された指定年月日から、訪問看護サービスを開始できます。 |
このプロセスには数ヶ月を要するため、開設希望日から逆算して、余裕を持ったスケジュールを立てることが成功の鍵です 。
ステップ3:【チェックリスト付】必要書類の準備と作成ポイント
指定申請で最も労力がかかるのが、多岐にわたる提出書類の準備です。
書類の不備は、指定の遅れに直結します。
以下のチェックリストを活用し、漏れなく準備を進めましょう。
| チェック | 書類名 | 概要・作成ポイント |
|---|---|---|
| ☐ | 指定(許可)申請書 | 事業所の基本情報を記載するメインの申請書です。 |
| ☐ | 指定に係る記載事項(付表) | 訪問看護ステーションのサービス内容等を記載します。 |
| ☐ | 法人定款・寄附行為の写し | 法人の目的や組織について記載された書類です。事業目的に「訪問看護事業」が含まれているか確認します。 |
| ☐ | 法人の登記事項証明書 | 発行後3ヶ月以内の原本が必要です。 |
| ☐ | 従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表 | 全職員の勤務シフトを記載します。常勤換算2.5名以上の基準を満たしているかを示す最重要書類の一つです。 |
| ☐ | 資格証・免許証の写し | 看護師や理学療法士など、全資格者の免許証のコピーが必要です。 |
| ☐ | 管理者に関する経歴書 | 管理者の学歴や職歴を記載します。 |
| ☐ | 事業所の平面図、写真 | 事務室や相談室の広さ、備品の配置が分かる図面と、外観・内部の写真が必要です。 |
| ☐ | 運営規程 | 事業所の「憲法」とも言える重要な書類。サービス内容、利用料、営業日時、緊急時の対応などを詳細に定めます。 |
| ☐ | 利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要 | 苦情受付窓口や対応フローを明記します。 |
| ☐ | 資産状況を証明する書類 | 決算書や残高証明書など、事業の財務的基盤を示します。 |
| ☐ | 欠格事由に該当しない旨の誓約書 | 役員等が法律で定められた欠格事由に該当しないことを誓約します。 |
| ☐ | 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書 | 介護報酬を請求するための体制を届け出る書類です。加算を取得する場合に必要となります。 |
これらの書類は、各都道府県や地方厚生局のウェブサイトから最新の様式をダウンロードして使用してください。
一つ一つの書類が、事業の適法性と質の高さを証明する「証拠」となります。
収益を最大化する「加算」の届出|主要な加算と2026年度改定のポイント
訪問看護ステーションの経営を安定させ、さらに質の高いサービスを提供するためには、「加算」の届出が不可欠です。
加算とは、基本的な訪問看護費に加えて、特定の体制や専門的なケアを提供した場合に算定できる追加の報酬のことです。
この加算を適切に届け出て算定することで、ステーションの収益は大きく向上します。
逆に、算定できるはずの加算を届け出ていなければ、それは大きな機会損失となります。
ここでは、主要な加算と、最新の制度改定の動向について解説します。
主要加算の算定要件と令和7年度(2025年度)改定に伴う届出の注意点
訪問看護には様々な加算がありますが、特に経営へのインパクトが大きい主要な加算を理解しておくことが重要です。
2024年度(令和6年度)の診療報酬・介護報酬同時改定では、いくつかの重要な変更がありました。
| 加算名 | 主な算定要件 | 2024年度改定のポイント・届出の注意点 |
|---|---|---|
| 緊急時訪問看護加算 | 利用者や家族からの緊急の求めに応じ、24時間対応できる体制を整備している。 | 届出が必要。利用者への事前説明と同意が重要です。 |
| 24時間対応体制加算 | 緊急時訪問看護加算の体制に加え、利用者からの電話等に常時対応できる連絡体制を確保している。 | 24時間対応の重要性が増しており、算定要件の遵守が厳格に求められます。 |
| ターミナルケア加算 | 死亡日および死亡日前14日以内に、2回以上のターミナルケア(終末期ケア)を実施している。 | 在宅での看取りを支える重要な加算。看取りの実績を記録・管理することが必要です。 |
| 訪問看護管理療養費 | 質の高い管理体制や、規模に応じた評価。 | (新設) 区分1と2が新設されました。ステーションの規模や機能に応じた届出が必要です。 |
| 訪問看護ベースアップ評価料 | 職員の賃金改善計画を策定し、届け出ている。 | (新設) 職員の処遇改善を目的とした加算。賃金改善計画書等の提出が必須です。 |
2025年度(令和7年度)は大きな報酬改定がない年ですが、2024年度改定で導入された新しい加算の算定や、オンライン請求・資格確認の本格導入など、対応すべき課題は少なくありません。
特に、賃金改善を目的とした「訪問看護ベースアップ評価料」は、人材確保の観点からも非常に重要です。
これらの加算を漏れなく算定できるよう、自社の体制を整え、適切な時期に届出を行いましょう。
事業拡大・変更時に必要な届出(サテライト設置・管理者変更など)
ステーションの運営は、一度指定を受けたら終わりではありません。
事業所の情報に変更があった場合は、その都度「変更届」を提出する義務があります。
この届出を怠ると、指導の対象となったり、報酬の返還を求められたりする可能性があるため注意が必要です。
| 変更事項の例 | 届出期限(原則) | 主な提出書類 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 事業所の名称・所在地 | 変更後10日以内 | 変更届出書、登記事項証明書、事業所の平面図・写真など | 移転の場合は、設備基準を満たしているか事前に確認が必要です。 |
| 管理者・役員の変更 | 変更後10日以内 | 変更届出書、新任者の経歴書・資格証の写し、誓約書など | 管理者の要件(常勤、資格など)を満たしているか確認します。 |
| サテライト事業所の設置 | 事前 | 変更届出書、サテライトの勤務形態一覧表、平面図など | 本体事業所との連携体制や、サテライトの人員・設備基準を満たす必要があります。 |
| 運営規程の変更 | 変更後10日以内 | 変更届出書、新旧対照表、新しい運営規程 | 利用者への影響が大きい変更(利用料など)は、事前の説明と同意が必要です。 |
| 事業の休止・廃止 | 休止・廃止の1ヶ月前まで | 休止・廃止届出書 | 利用者への影響を最小限にするため、他のサービスへの引き継ぎなどを計画的に行う必要があります。 |
特にサテライト事業所を設置する場合は、新規開設に近い準備が必要となるケースもあります。
変更が生じた場合は、速やかに管轄の行政機関に確認し、適切な手続きを行いましょう。
【独自ノウハウ】届出後の経営を安定させる!「みつかる訪看」活用法
無事に届出を終え、事業を開始しても、すぐに経営が安定するわけではありません。
最も重要な課題は、いかにして利用者を確保し、地域の医療・介護関係者と円滑な連携を築くかです。
ここで、競合にはない独自の情報として、私たちの運営するプラットフォーム「みつかる訪看」の活用法をご紹介します。
「みつかる訪看」は、ケアマネージャーや病院の退院調整看護師が、最適な訪問看護ステーションを効率的に探すためのデジタルツールです。
届出を終えたばかりの新しいステーションにとって、このプラットフォームは強力な営業・連携ツールとなり得ます。
- 専門性のアピール: 精神科対応、小児対応、特定の医療処置(吸引、褥瘡管理など)といった自社の強みを登録することで、専門的なケアを必要とする利用者の紹介に繋がります。
- 空き枠情報のリアルタイム更新: 「今すぐ対応可能」という情報を発信することで、緊急の依頼を獲得するチャンスが広がります。
- 円滑なコミュニケーション: 紹介状のPDF化やFAX送信機能により、ケアマネージャー等とのやり取りがスムーズになり、迅速なサービス開始を実現します。
実際に、神奈川県川崎市のケアマネージャーからは「夜間対応やALS経験などで絞り込めるため、在宅移行が劇的に円滑になった」という声や、大阪府豊中市の退院調整看護師からは「対応疾患や資格から瞬時に特定でき、翌日の初回訪問までスムーズに決まった」といった実績報告が寄せられています 。
届出後の営業活動に「みつかる訪看」を組み込むことで、効率的にステーションの認知度を高め、安定した経営基盤を早期に築くことが可能です。
まとめ:正確な届出が、地域に信頼されるステーション運営の第一歩
訪問看護ステーションの開設と運営における「届出」は、非常に複雑で多岐にわたる手続きです。
しかし、これらは全て、質の高いケアを提供し、利用者と職員の安全を守り、そして地域社会の信頼を得るために不可欠なプロセスです。
この記事で解説したステップやチェックリストを活用し、一つ一つの手続きを丁寧に進めていきましょう。
法人格の取得から、3つの指定基準のクリア、そして多岐にわたる書類の準備と申請、さらには収益を左右する加算の届出まで、その道のりは決して平坦ではありません。
しかし、この最初のハードルを乗り越えることが、地域に根差し、多くの人々の暮らしを支える訪問看護ステーションを創り上げるための、確かな第一歩となります。
この記事が、あなたの事業成功への羅針盤となることを心から願っています。
訪問看護事業の将来性はどのように見込まれていますか?
訪問看護の需要は高齢化社会の進展と在宅医療の普及により、今後も拡大が見込まれます。将来的には高齢者や利用者数が増加し、適切な経営を行えば安定した事業基盤を築くことが可能です。
訪問看護ステーションを起業するために必要な資金はどのくらいですか?
一般的に、訪問看護ステーションを立ち上げるためには約500万円から1,500万円の資金が必要となります。これは法人設立費や設備・車両購入費、広告宣伝費、最低6ヶ月の運転資金を含みます。
訪問看護ステーションを開業するための具体的な手順は何ですか?
開業の基本手順は、事業理念の計画と事業計画書の作成、法人設立、設備と人員の整備、行政への指定申請、地域医療関係者との連携、認定取得、そして継続的な営業活動です。
訪問看護の起業に成功した人が意識する重要なポイントは何ですか?
成功者は事業計画と資金計画を重視し、経営戦略や差別化を行います。スタッフの採用と育成、行政手続きの適正さ、地域医療との連携も重要ポイントです。失敗事例を参考に計画的に進めることが成功の鍵です。
起業時に避けるべき失敗とその対策は何ですか?
資金不足やスタッフの離職、マーケティング不足による利用者獲得失敗は典型例です。これを防ぐには慎重な資金計画、労働法規の遵守、良好なスタッフ関係、市場調査、差別化戦略の実行が必要です。